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福岡地方裁判所小倉支部 平成6年(ワ)872号 判決 1998年9月11日

原告

有限会社さえき

右代表者代表取締役

佐伯勝弘

右訴訟代理人弁護士

藤浦照生

被告

A

被告

B

被告

C

被告

D

被告

E

被告

F

被告

G

被告

H

右八名訴訟代理人弁護士

尾崎英弥

横光幸雄

主文

一  原告に対し、

1  被告Aは、一二四万九〇六八円及びこれに対する平成六年八月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を

2  被告Bは、一一七万四二七四円及びこれに対する平成六年八月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を

3  被告Cは、六八万四三七〇円及びこれに対する平成六年八月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を

4  被告Dは、六四万四一六五円及びこれに対する平成六年八月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を

5  被告Eは、五九万六〇四一円及びこれに対する平成六年八月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を

6  被告Fは、二万八六九八円及びこれに対する平成六年八月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を

7  被告Gは、三三万八〇〇〇円及びこれに対する平成六年八月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を

8  被告Hは、二九万〇一七〇円及びこれに対する平成六年八月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を

それぞれ支払え。

二  原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その四を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

別紙請求金額目録<略>記載の各被告は、原告に対し、各被告に対応する表の各元本欄記載の金員及びこれに対する遅延損害金起算日欄記載の日から支払済みまで年五分の割合による金員を、連帯債務者欄記載の被告らと連帯して支払え。

第二事案の概要

一  本件は、原告の経営するコンビニエンスストアーで店員として勤務していた被告らが、相互に容認し又は黙認し合って、レジを不正操作するなどの方法により、正規の代金を支払わずに、店の商品を持ち出したり、客として来店した被告や知人らにこれを取得させるなどの窃盗行為又はその幇助行為を繰り返したとして、原告から被告らに対し、民法七一九条一項、二項に基づき、それぞれの被告らが勤務していた期間内に生じた損害分につき、連帯して賠償金を支払うよう求めた事案である。

二  前提事実

1  原告は、「ヤマザキデイリーストアー浅川台店」の名でコンビニエンスストアー(以下「本件店舗」という。)を経営している有限会社であり、本件店舗において、ビール・洋酒・日本酒等の酒類、ジュース類、新聞・雑誌類、たばこ、パン・菓子類、弁当その他のファーストフード、石鹸・シャンプー・男性用化粧品その他の雑貨類を販売している。

被告らと訴外N、M、Kは、別紙「従業員勤務年数一覧表」<略>記載の各期間、原告にアルバイト店員として雇用され、本件店舗において、店番(商品の案内、盗難防止)、商品の陳列、販売(レジ操作)及びその補助(レジを打った商品の袋詰めと店内の防犯の監視)、清掃等の業務に従事していた者である。

(N、M、Kに関する部分は、<証拠略>と原告代表者の供述。その余は争いがない。なお、以下「被告ら」というときは、右Nら三名を含めていうことがある。)

2  被告Cを除く被告らは、次のような行為(以下「不正行為」と総称する。)の全部又は一部を行ったことがある(<証拠・人証略>、被告Cを除く被告らの各供述)。

(一) 客として来店した被告ら従業員や知人に対し、購入しようとする商品の一部につき、バーコードをレジに通さなかったり、洋酒類のバーコードのない商品については一旦レジに入力した後その場でクリアーキーで消去するなどして、その分の代金の支払を受けないで商品を取得させる。不正に商品を買い受けた被告は、その事実を知っても、本件が発覚するまでこれを原告に申告したことはないし、その代金を支払ったこともない。

(二) 本件店舗の倉庫に入り、代金を支払わないで、保管中のジュースやバン等の商品を飲食する。

(三) 倉庫内に保管中の商品を、ゴミ捨て用の段ボール箱の底に隠し、その上にゴミを載せてゴミ捨て場に置いておき、帰宅時に、代金を支払わないで、そこから商品を持ち帰る。

(四) 倉庫内の商品を、代金を支払わないで、袋に入れて持ち帰る。

3  N、M、Kは、いずれも原告に対し、不正行為を行ったことを認め、Nは平成六年四月九日、MとKは同年三月一九日、それぞれ損害賠償金として、一〇〇万円ずつを支払って、原告との間で示談をした(<証拠略>)。

三  争点

被告Cは、自ら不正行為を行ったことはないし、他の被告らが不正行為を行ったことも知らなかった旨主張し、その余の被告らは、不正行為の全部又は一部を行ったことは認めるが、その総額は多い者でも二、三万円程度であった旨主張する。

したがって、本件の争点は、被告Cが、不正行為に、共同不法行為者又は幇助者として関与したか否かという点と、被告らの損害賠償責任の範囲である。

四  被告らの損害賠償責任の範囲に関する当事者の主張

1  原告

(一) 被告らの不正行為により原告の受けた損害額は、次のとおり合計一四八七万三〇〇〇円である。なお、原告の事業年度は、毎年八月一月から翌年七月三一日までである。

(1) 平成二年八月から平成三年七月までの間 四九三万七〇〇〇円

(2) 平成三年八月から平成四年七月までの間 三四八万〇〇〇〇円

(3) 平成四年八月から平成五年七月までの間 四四七万二〇〇〇円

(4) 平成五年八月から平成六年二月までの間 一九八万四〇〇〇円

(二) 被告らは、原告に雇用されていた従業員として、本件店舗での盗難防止義務を負っていたにもかかわらず、相互に容認し又は黙認し合って、不正行為を繰り返していたものであるから、原告に対し、共同不法行為又はその幇助行為に基づき、各勤務期間内に生じたものと推認できる損害につき、連帯して賠償すべき義務がある。

(三) ところで、原告は、N、M及びKから、各一〇〇万円ずつの賠償金の支払を受けたので、これを、次のとおり、同人らの勤務期間に応じて、前記(一)の(1)ないし(3)の各損害賠償債務の弁済に充当した。

(1) 平成二年八月から平成三年七月までの間に生じた損害のうち、<1>Nの支払分から三二万円(勤務月数約九か月)、<2>Mの支払分から二〇万円(同三か月)を、それぞれ右期間内に生じた損害賠償債務の弁済に充当した。その残額は四四一万七〇〇〇円である。

(2) 平成三年八月から平成四年七月までの間に生じた損害のうち、<1>Nの支払分から四三万円(同一二か月)、<2>Mの支払分から八〇万円(同一一か月)、<3>Kの支払分から二〇万円(同一か月)を、それぞれ右期間内に生じた損害賠償債務の弁済に充当した。その残額は二〇五万円である。

(3) 平成四年八月から平成五年七月までの間に生じた損害のうち、<1>Nの支払分から二五万円(同七か月)、<2>Kの支払分から八〇万円(同四か月)を、それぞれ右期間内に生じた損害賠償債務の弁済に充当した。その残額は三四二万二〇〇〇円である。

(四) したがって、各被告らが賠償すべき金額(一〇〇〇円未満切捨)は次のとおりとなる。

(1) 被告Aについて(勤務期間平成二年六月二日から平成四年二月二九日まで)

<1> 平成二年八月分につき、三六万八〇〇〇円

(4,417,000÷12×1=368,083)

<2> 平成二年九月分につき、三六万八〇〇〇円(被告Bとの連帯債務)

(4,417,000÷12×1=368,083)

<3> 平成二年一〇月から平成三年四月までの分につき、二五七万六〇〇〇円(被告B、同Cとの連帯債務)

(4,417,000÷12×7=2,576,583)

<4> 平成三年五月から同年一一月までの分につき、一七八万七〇〇〇円(被告B、同E、同Dとの連帯債務)

(4,417,000÷12×3+2,050,000÷12×4=1,787,583)

<5> 平成三年一二月分につき、一七万円(被告E、同Dとの連帯債務)

(2,050,000÷12×1=170,833)

<6> 平成四年一月、二月分につき、三四万一〇〇〇円(被告E、同D、同Fとの連帯債務)

(2,050,000÷12×2=341,666)

<7> 合計 五六一万円

(2) 被告Bについて(勤務期間平成二年八月二一日から平成三年一一月二五日まで)

<1> 平成二年九月分につき、三六万八〇〇〇円(被告Aとの連帯債務)

(4,417,000÷12×1=368,083)

<2> 平成二年一〇月から平成三年四月までの分につき、二五七万六〇〇〇円(被告A、同Cとの連帯債務)

(4,417,000÷12×7=2,576,583)

<3> 平成三年五月から同年一一月までの分につき、一七八万七〇〇〇円(被告A、同E、同Dとの連帯債務)

(4,417,000÷12×3+2,050,000÷12×4=1,787,583)

<4> 合計 四七三万一〇〇〇円

(3) 被告Cについて(勤務期間平成二年九月三〇日から平成三年四月三〇日まで)

平成二年一〇月から平成三年四月までの分につき、二五七万六〇〇〇円(被告A、同Bとの連帯債務)

(4,417,000÷12×7=2,576,583)

(4) 被告Dについて(勤務期間平成三年四月九日から平成五年二月二三日まで)

<1> 平成三年五月から同年一一月までの分につき、一七八万七〇〇〇円(被告A、同B、同Eとの連帯債務)

(4,417,000÷12×3+2,050,000÷12×4=1,787,583)

<2> 平成三年一二月分につき、一七万円(被告A、同Eとの連帯債務)

(2,050,000÷12×1=170,833)

<3> 平成四年一月、二月分につき、三四万一〇〇〇円(被告A、同E、同Fとの連帯債務)

(2,050,000÷12×2=341,666)

<4> 平成四年三月、四月分につき、三四万一〇〇〇円(被告E、同Fとの連帯債務)

(2,050,000÷12×2=341,666)

<5> 平成四年五月から同年七月までの分につき、五一万二〇〇〇円(被告E、同F、同Gとの連帯債務)

(2,050,000÷12×3=512,499)

<6> 平成四年八月から平成五年二月までの分につき、一九九万六〇〇〇円(被告E、同G、同Hとの連帯債務)

(3,422,000÷12×7=1,996,166)

<7> 合計 五一四万七〇〇〇円

(5) 被告Fについて(勤務期間平成三年一二月六日から平成四年八月一八日まで)

<1> 平成四年一月、二月分につき、三四万一〇〇〇円(被告A、同E、同Dとの連帯債務)

(2,050,000÷12×2=341,666)

<2> 平成四年三月、四月分につき、三四万一〇〇〇円(被告E、同Dとの連帯債務)

(2,050,000÷12×2=341,666)

<3> 平成四年五月から同年七月までの分につき、五一万二〇〇〇円(被告E、同D、同Gとの連帯債務)

(2,050,000÷12×3=512,499)

<4> 合計 一一九万四〇〇〇円

(6) 被告Eについて(勤務期間平成三年四月二四日から平成六年三月一九日まで)

<1> 平成三年五月から同年一一月までの分につき、一七八万七〇〇〇円(被告A、同B、同Dとの連帯債務)

(4,417,000+12×3+2,050,000÷12×4=1,787,583)

<2> 平成三年一二月分につき、一七万円(被告A、同Dとの連帯債務)

(2,050,000÷12×1=170,833)

<3> 平成四年一月、二月分につき、三四万一〇〇〇円(被告A、同D、同Fとの連帯債務)

(2,050,000÷12×2=341,666)

<4> 平成四年三月、四月分につき、三四万一〇〇〇円(被告D、同Fとの連帯債務)

(2,050,000÷12×2=341,666)

<5> 平成四年五月から同年七月までの分につき、五一万二〇〇〇円(被告D、同F、同Gとの連帯債務)

(2,050,000÷12×3=512,499)

<6> 平成四年八月から平成五年二月までの分につき、一九九万六〇〇〇円(被告D、同G、同Hとの連帯債務)

(3,422,000÷12×7=1,996,166)

<7> 平成五年三月分、平成五年一二月から平成六年二月までの分につき、一一三万五〇〇〇円(被告G、同Hとの連帯債務)

(3,422,000÷12×1+1,984,000÷7×3=1,135,452)

<8> 平成五年四月から同年一一月までの分につき、二二七万四〇〇〇円(被告Gとの連帯債務)

(3,422,000÷12×4+1,984,000÷7×4=2,274,380)

<9> 合計 八五五万六〇〇〇円

(7) 被告Gについて(勤務期間平成四年四月二三日から平成六年三月八日まで)

<1> 平成四年五月から同年七月までの分につき、五一万二〇〇〇円(被告E、同D、同Fとの連帯債務)

(2,050,000÷12×3=512,499)

<2> 平成四年八月から平成五年二月までの分につき、一九九万六〇〇〇円(被告E、同D、同Hとの連帯債務)

(3,422,000÷12×7=1,996,166)

<3> 平成五年三月、平成五年一二月から平成六年二月までの分につき、一一三万五〇〇〇円(被告E、同Hとの連帯債務)

(3,422,000÷12×1+1,984,000÷7×3=1,135,452)

<4> 平成五年四月から同年一一月までの分につき、二二七万四〇〇〇円(被告Eとの連帯債務)

(3,422,000÷12×4+1,984,000÷7×4=2,274,380)

<5> 合計 五九一万七〇〇〇円

(8) 被告Hについて(勤務期間平成四年七月三一日から平成五年三月三一日まで、及び平成五年一一月一五日から平成六年二月二五日まで)

<1> 平成四年八月から平成五年二月までの分につき、一九九万六〇〇〇円(被告E、同G、同Dとの連帯債務)

(3,422,000÷12×7=1,996,166)

<2> 平成五年三月、平成五年一二月から平成六年二月までの分につき、一一三万五〇〇〇円(被告E、同Gとの連帯債務)

(3,422,000÷12×1+1,984,000÷7×3=1,135,452)

<3> 合計 三一三万一〇〇〇円

2  被告ら

(一) 原告の主張する損害額は高額過ぎて不自然である。本件店舗では、被告ら学生アルバイトは、一日に平均して五名が勤務しているが、原告の主張する損害額を前提とすると、不正行為により毎日一万円前後の損害が発生し、一人平均二〇〇〇円前後の不正行為を毎日していることになるが、このようなことは凡そ考えられないことである。

(二) 被告らには、他の従業員の不正を監視し、その不正を原告に申告すべき義務はない。被告らは、いずれも正社員ではなく、社会経験の乏しい、高校又は大学等に在学中の学生アルバイトにすぎないから、雇用契約上の義務として、右のような義務まで負担するものとは考えられない。したがって、他の被告らの行った不正行為を仮に知ったとしても、これを原告に申告すべき義務はないから、これを怠ったことにつき幇助者としての責任を負担させることはできない。

(三) 仮に、被告らに、右のような義務があるとしても、その義務が具体的に発生するのは、他の従業員の個々の具体的な不正行為を発見した場合についてだけであって、そのような場合でない、単に抽象的に不正行為のおそれがあるというに過ぎない場合にまで右のような義務を負担するものではなく、まして、自己の勤務時間外に他の従業員が行った不正行為についてまで不正を監視し又はこれを申告すべき義務はない。

第三当裁判所の判断

一  原告の営業内容等について

第二の二1の事実、(証拠・人証略)、原告代表者の供述と弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

1  原告は、その代表者佐伯勝弘が経営していた酒店をコンビニエンスストアーに業態変更した後、これを法人化するため平成元年三月に設立された有限会社であり、右代表者が個人で経営していた昭和五九年六月ころから、サンショップヤマザキ株式会社(以下「ヤマザキ」という。)との間でフランチャイズ契約を締結し、「ヤマザキデイリーストアー浅川台店」の名で、本件店舗において、ビール・洋酒・日本酒等の酒類、ジュース類、新聞・雑誌類、たばこ、パン・菓子類、弁当その他のファーストフード、石鹸・シャンプー・男性用化粧品その他の雑貨類を販売している。

2  本件店舗の営業は年中無休で、営業時間は午前六時から午後一二時までである。事業年度は毎年八月一日から翌年七月三一日までで、年に一度、事業年度末に、ヤマザキ本部から委託を受けた棚卸業者により棚卸が行われてきた。

3  本件店舗での仕入れと売上げの管理は、次のように行われている。

(一) 酒類、たばこ、塩、米等の一部の商品は、原告から直接卸業者に注文して仕入れるが、それ以外の商品はすべて、ヤマザキのコンピューターとオンラインで結ばれている本件店舗備付のコンピューターにより、ヤマザキに注文して、その指定業者から仕入れる。

(二) 仕入れた商品を廃棄する場合は、商品の分類・数量・単価・金額を本件店舗備付のコンピューターに入力する。

(三) 売上げは、酒類やたばこを含めてすべて、レジスターを通して、その都度、商品の分類・数量・単価・金額等が本件店舗備付のコンピューターに入力され、閉店後、ヤマザキ本社の親コンピューターに転送される。

(四) ヤマザキでは、このようにして転送されてくる本件店舗からのデータを管理整理して売上分析表・商品動向分析表等を作成し、毎月、これらを原告に送付している。

4  原告では、開店以来、本件店舗の従業員として、正社員を雇用したことはなく、主婦パートを約四名、高校又は大学等に在学中の学生アルバイトを約六、七名ずつ雇用してきた。そして、平日は、午前八時から午後五時までは二名の主婦パートを、午後五時から午後一二時までは二、三名の学生アルバイトを配置するものとして、右時間帯に各従業員の勤務時間のローテーションを組んで交互に勤務させている(なお、日曜祝日には、主に女子の学生アルバイトを午前九時から午前一二時まで勤務させることがある。)。

5  原告代表者自身も、毎日、本件店舗において営業に従事しているが、営業時間のうち、概ね午後零時ころから午後三時ころまで、午後七時ころから午後八時五〇分ころまで、午後九時ころから午後一〇時五〇分ころまでの間は、食事、休憩及び次の配達等のために本件店舗から離れているほか、午前八時ころから午後零時ころまで、午後三時ころから午後七時ころまでの間は、酒類等の配達のため随時本件店舗から離れることがある。

また、原告の取締役である原告代表者の妻も、午前八時ころから午後六時ころまでの間、断続的に来店して営業を手伝うことがある。

6  本件店舗には、かねて、防犯用の監視カメラが六台設置してあったが、平成四年九月末ころ、顧問税理士上田昭仁から利益率が低下している旨指摘を受けたことから、原告代表者は、閉店後の侵入者による窃盗や客による万引きの可能性を疑い、店舗と倉庫の出入口の施錠を強化したり、その各窓に施錠を取り付けたりしたほか、営業時間中の万引きに対する監視体制の強化を図ったが、それでも状況が変わらなかったため、次第に従業員による不正行為を疑い始め、平成五年八月ころ、倉庫内に隠しカメラを設置するとともに、店内の監視カメラの監視位置も変え、原告代表者が本件店舗を離れている間の従業員の動きをビデオに録画するなどして、不正行為を確認する体制をとった。

二  被告らの業務内容、不正行為の態様について

前記第二の二1、2の事実、(証拠・人証略)、原告代表者の供述、被告Cを除く被告らの各供述と弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  被告らは、別紙「従業員勤務年数一覧表」記載の各期間、学生アルバイトとして、主に午後五時から午後一二時までの営業時間帯に、本件店舗で勤務していた。その業務内容は、店番(商品の案内、盗難防止)、商品の陳列、販売(レジ操作)及びその補助(レジを打った商品の袋詰めと店内の防犯の監視)、清掃等であった。そのうち、レジ業務は、原告の指示により、補助者とペアーになって行うものとされ、実際、そのように行われていた。

2  被告Cを含む被告らは、原告代表者が本件店舗から離れている時間帯のうち、主に午後七時ころから午後一一時ころまでの間、その方法を他から教えてもらい又はそれを見て自分も行っても構わないと考え、それほど抵抗感を抱くことなく、次のような不正行為の全部又は一部を行っていた。

(一) 客として来店した被告ら従業員や知人に対し、サービスと称して、購入しようとする商品の一部を、商品のバーコードをバーコードリーダーから多少ずらせて通過させたり、洋酒等のバーコードのない商品については一旦レジに入力した後その場でクリアーキーで消去するなどの方法により、正規にレジを通さず、その分の代金の支払を受けないで、これを不正に取得させた。

特に従業員間で右のような方法による不正行為が行われる場合は、その場でサービスをする旨告げることもあるが、その旨告げなくても、不正に商品を買い受けた従業員は、レジ打ちの業務経験に照らしてみて、バーコードリーダーの電子音が鳴らなかったり、クリアーキーが操作されることにより、サービスをしてもらったことを知り得る状況にあった。レジの補助者も同様にこれを知り得る状況にあった。

不正に商品を買い受けた被告は、その事実を知っても、本件が発覚するまではこれを原告に申告したことはないし、その代金を支払ったこともない。

(二) 勤務中、本件店舗の倉庫内に入り、保管中のジュースやパン等の商品を代金を支払わないで飲食した。

(三) 勤務中、倉庫内の商品を、ゴミ捨て用の段ボール箱の底に隠し、その上にゴミを載せてゴミ捨て場に置いておき、帰宅時に、代金を支払わないでそこから商品を持ち帰った。

(四) 非番の従業員が、本件店舗に来て、勤務中の従業員から監視カメラの監視位置を教えてもらい、倉庫の鍵とビニール袋を受け取り、監視カメラの死角を通って倉庫内に入り、代金を支払わないで商品をビニール袋に入れて持ち帰った。そのような従業員の中には、店内に陳列されていた商品まで持ち帰る者もあった。

以上の事実が認められる。

被告Cは、自ら不正行為を行ったことはないし、他の被告らが不正行為を行ったことも知らなかった旨主張し、(証拠略)及び同被告の供述中には右主張に沿う部分がある。しかし、被告Cは、平成三年四月一二日から勤務を始めたMに対し、前記(三)の不正方法を教えている事実(<人証略>)、本件発覚後、原告に対し、不正行為を行ったことを認める旨の書面を作成交付している事実(<証拠略>)、原告から告訴された後、窃盗被疑事件として検察官から取調べを受けた際、「商品をいただく時は、事前に相談をしておらず、お互いが「空うち」による盗みだと暗黙のうち分かっていた。」旨供述し、その旨記載した供述調書が作成されている事実(<証拠略>)に照らすと、前記証拠を信用することはできない。

他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。

三  不正行為により原告が被った損害について

1  本件店舗における不明金の発生とその評価について

(一) 原告の請求は、被告らの不正行為により平成二年八月から平成六年二月までの間に発生したとする損害の賠償を求めるものであるところ、この間に発生した不明金と後記認定のとおり不正行為が明らかに存在しなくなったといってよい平成六年三月から五月までの間に発生した不明金は、次のとおりであると認められる。

すなわち、(証拠・人証略)、原告代表者の供述によれば、原告の顧問税理士上田昭仁が、ヤマザキが前記一の3のとおり作成した売上分析表・商品動向分析表及び商品廃棄管理台帳(控え)、棚卸業者が作成した棚卸高明細書、原告の会計伝票に基づいて右税理士が作成した元帳を各整理集計した結果、次の各上段の期間における正味売価金額(ロス・不正等が全くないと仮定した場合に実現できる売上金額)と税込不明金額は、それぞれ、各下段のとおり(いずれも一〇〇〇円未満は四捨五入)であったことが認められ、右基礎資料の数値及び整理集計方法に不正確、不合理な点は見当たらない。

(1) 平成二年八月から平成三年七月まで 一億六三六三万四〇〇〇円

四九三万七〇〇〇円

(2) 平成三年八月から平成四年七月まで 一億六八二八万八〇〇〇円

三四八万〇〇〇〇円

(3) 平成四年八月から平成五年七月まで 一億六三〇二万四〇〇〇円

四四七万二〇〇〇円

(4) 平成五年八月から平成六年二月まで 八七六八万一〇〇〇円

一九八万四〇〇〇円

(5) 平成六年三月から同年五月まで 三五五三万二〇〇〇円

五万四〇〇〇円

(二) 一般に、コンビニエンスストアーの経営においては、客による万引き等の不正や商品の仕入れ・販売過程における過誤等により不明金が発生することは避けられないところ(公知の事実)、本件店舗において、このように不可避的に生じる不明金を超える部分は、他に特段の事情のない限り(なお、本件では、部外者による反復的な窃盗行為や経営者による会計を通さない自家消費など、本件の不正行為以外の不正の事実を認めるに足りる証拠がない。)不正行為によって生じた不明金であると推認するのが相当である。

(三) そこで、本件店舗において不正行為が存在しなくても発生したと考えられる不明金ないしその発生率について検討する。

(1) この点、平成六年三月から同年五月までの間は、後記認定のとおり不正行為が存在しないことが明らかであるから、この間に生じた不明金が、本件店舗において不可避的に発生する不明金を示していることはまず間違いないといえる。しかし、この額が本件店舗において常態的に発生すると考えられる不明金であると認めるには、次の点で疑問が残る。

<1> 右不明金は、平成六年三月から五月までのわずか三か月間の営業実績に基づくものであるにすぎない上、右の期間は、不正行為が発覚したことにより、経営者による経理管理の強化が図られたと考えられる時期である。また、(証拠略)(ヤマザキ直営店の棚卸計算書)によれば、不明金発生率は、毎月ほぼ一定の数値を示すものではなく、年間を通じて時期的に顕著な開きを生じるものであることが窺われる(すなわち、右ヤマザキ直営店の平成九年四月から六月までの三か月間における不明金発生率の平均が〇・四六パーセントであるのに対し、七月から九月までのそれが〇・〇三パーセントと約一五倍の開きが生じている。)。

<2> 更に、本件店舗においては、すでに平成五年八月ころから、不正行為が存在しなくなったと窺われる次のような事実が認められる。

すなわち、(証拠略)、原告代表者、被告E及び被告Gの各供述によれば、原告代表者が前記一6のとおり従業員による不正行為を疑い、これを確認するため、平成五年八月ころ、倉庫に隠しカメラを設置するとともに、店内の監視カメラの監視位置を変え、原告代表者が本件店舗を離れている間の従業員の動きをビデオに録画するなどして、不正行為を確認する体制をとったこと、ところが、従業員自身においても、そのころまでには、原告代表者から疑われていることを察知するとともに、右隠しカメラの存在や店内の監視カメラの監視位置の変更、録画による監視についても間もなく知るに至ったこと、そのころ勤務していた被告Gは、夜買い物に来た元従業員のMに対し、「最近カメラの位置が変わりヤバイので、最近はやっていないんですよ。」と述べていたこと、原告代表者は、平成五年八月ころ以降、前記のとおり隠しカメラを設置するなどして、従業員の不正行為を確認しようと努力していたが、従業員による不審な行動を捕捉し得たのは、次のレジの打損じの一件のみであったこと(なお、原告代表者は、これを努力の賜と供述する。)、原告代表者は、従業員による不正行為の現場を押さえることができなかったことから、平成六年二月一六日、被告Gに対し、被告Eが不正行為を自供した旨嘘を述べて、被告Gから自供を引き出し、これを契機に、その余の被告らからも順次自供が得られて、被告らの不正行為が明らかになったことが認められる。

なお、(証拠略)と原告代表者の供述によれば、平成五年一一月一五日午後一一時前、被告Gがレジ、被告Eがその補助の業務に従事していた際、客として来店した元従業員のSに対し、購入した商品の一つ(ぶたまん)をバーコードリーダーにより値段を入力しないで売り渡したのを、監視カメラを通じて原告代表者に現認されたことが認められる。しかし、前記認定の平成五年八月以降の状況のほか、これまで被告らがレジの不正操作により不正行為を行う場合、監視カメラに正常にレジ打ちしているように見せかけるため商品のバーコードをバーコードリーダーから多少ずらせて通過させる方法により行っていたが、前記の場合、被告Gには、そのような行為がみられず、監視カメラから明らかに打損じと分かるものであったこと、被告Gの右の点に関する弁解(<証拠略>と同被告の供述)は、単なる言逃れとして排斥できる程には不自然でないことに照らすと、右レジの打損じが意図的に行われた不正行為であると認定するには十分でないというべきである。

以上のとおり、本件店舗においてはすでに平成五年八月ころから不正行為が存在しなくなったと窺われる事実が存するので、その間に発生した不明金も不正行為とは関係なく発生した可能性を否定することはできないものというべきである。

(2) ところで、平成五年三月当時本件店舗で勤務していた被告E及び同Hは、同年三月以降は不正行為を止めた旨述べていることから(<証拠略>、同被告らの供述)、それより前は不正行為を行っていたことは争わないものと認めることができる。これと前記の点を併せると、平成四年八月から平成五年七月までの間に発生した不明金の中には不正行為によるものが含まれているが、平成五年八月から平成六年二月までの間に発生した不明金の中には不正行為によるものが含まれているか否かは不明であり、平成六年三月から五月までの間に発生した不明金の中には不正行為によるものは含まれていないということができる。

そうすると、結局、本件店舗において、不正行為が存在しなくても発生したと考えられる不明金の額、換言すれば、不正行為によって生じた損害額を推計するための前提となる額は、平成五年八月から平成六年五月までの間に発生した不明金の総額に基づいてこれを認定するのが相当である(すなわち、原告において、平成五年八月から平成六年二月までの間に発生した不明金の中に不正行為によるものが含まれていることの立証が十分でない以上、右期間内に発生した不明金の中には不正行為によるものが含まれていないものとして、損害額を認定するほかないというべきである。)。

右によると、不正行為が存在しなくても発生すると考えられる本件店舗の不明金発生率は、次の算式のとおり、一・六五四パーセントであると推計することができる。

(1,984,000+54,000)÷(87,681,000+35,532,000)×100=1.654

(3) なお、ヤマザキ直営店の年間を通じて発生する不明金の平均発生率を示す(証拠略)は、それが一般的な不明金発生率を示すものであるか否かは不明であるし、不明金ないしその発生率は、当該店舗における取扱商品の種類・数量、商品の仕入れ方法や代金の清算方法、店内の防犯体制、レジ担当者の打損じの頻度などの諸要因によって店舗毎に様々であると考えられるから、右直営店における不明金発生率をそのまま本件店舗のそれに類推することはできないものというべきである。

また、(人証略)の証言中には、コンビニエンスストアーにおける一般的な不明金発生率は〇・三パーセントが妥当であるとする部分があるが、右証言は、伝聞を述べるものに過ぎない上、その数値の正確性を確認したこともないとするものであるから、これを採用することもできない。

2  不正行為により本件店舗で発生した不明金について

(一) 前記1(三)(2)のとおり推計される不明金発生率に基づき、本件店舗において平成二年八月から平成五年七月までの各営業年度内に発生したと考えられる不明金(一〇〇〇円未満は四捨五入)を示すと、次のとおりとなる。

(1) 平成二年八月から平成三年七月まで 二七〇万七〇〇〇円

(163,634,000×0.01654=2,706,506.36)

(2) 平成三年八月から平成四年七月まで 二七八万三〇〇〇円

(168,288,000×0.01654=2,783,483.52)

(3) 平成四年八月から平成五年七月まで 二六九万六〇〇〇円

(163,024,000×0.01654=2,696,416.96)

(二) そうすると、不正行為により本件店舗で発生した不明金は、次のとおりと推計することができる。

(1) 平成二年八月から平成三年七月まで 二二三万〇〇〇〇円

(4,937,000-2,707,000=2,230,000)

(2) 平成三年八月から平成四年七月まで 六九万七〇〇〇円

(3,480,000-2,783,000=697,000)

(3) 平成四年八月から平成五年七月まで 一七七万六〇〇〇円

(4,472,000-2,696,000=1,776,000)

(三) この点、被告らは、不正行為による損害額が高額すぎて不自然である旨主張し、この主張に沿う証拠として、被告Cを除く被告らは、自ら行った不正行為の総額につき、少ない者で一〇〇〇円位、多い者で三万五〇〇円位であった旨供述し、その旨記載された書証(<証拠略>)も存するところ、(証拠略)の記載や(人証略)の証言に照らすと、被告らの不正行為が右の程度に止まるものであるとはにわかに信じ難いものである上、被告らの前記供述や書証の記載が納得できるだけの根拠を伴ったものでないことに照らすと、これを信用することはできない。

3  以上によれば、不正行為によって原告が被った損害額は、前記2(二)のとおり推計される平成二年八月から平成五年七月までの間に発生した不明金相当額の合計四七〇万三〇〇〇円であると認められる。

四  被告らの不法行為・幇助行為の成否とその損害賠償責任の範囲について

1  被告らは、別紙「従業員勤務年数一覧表」記載の各期間、原告の経営する本件店舗に店員として雇用されていた者であるが、一般に、本件店舗のような店で店員として勤務する従業員は、雇用契約上の具体的義務として、客による万引きを防止する等の防犯義務を負担するほか、信義則に基づくいわゆる誠実義務として、雇用主に経営上の損害を与えないよう配慮すべき義務、すなわち、自ら店の商品を盗取するなどの不正行為をしないことはもとより、他の従業員による不正行為を発見したときは、雇用主にこれを申告して被害の回復に努めるべき義務をも負担するものと解するのが相当である。そして、従業員自らが商品を盗取するなどの不正行為をした場合にはこれが不法行為を構成することは明らかであるが、更に、他の従業員による不正行為を発見しながらこれを雇用主に申告しないで被害の発生を放置した場合には、その不作為が前記内容の誠実義務に違反する債務不履行を構成するのみならず、その不作為によって他の従業員による不法行為(不正行為)を容易にしたものとして、不法行為に対する幇助が成立するものというべきである。

この点、被告らは、学生アルバイトにすぎない被告らには、他の従業員による不正行為を雇用主に申告すべき義務はない旨主張するが、前記内容の誠実義務は、雇用契約関係にあれば信義則上当然に生じるべき義務であり、何人もこれを容易に履行することのできるものであるから、社会経験の乏しい学生アルバイトであるからといってその義務がないとすることはできない。

よって、右主張は採用することができない。

2  被告らの不法行為・幇助行為の成否について

(一) まず、本件店舗において不正行為が行われていた期間についてみると、前記三2(二)のとおり、平成二年八月から平成五年七月までの間に、不正行為により発生したとしか考えられない不明金が発生していること、弁論の全趣旨によれば、すでに平成二年八月以前から被告ら以外の従業員によるものも含めて不正行為が行われていた可能性があること、他方で、(証拠略)、被告E及び同Hの供述によれば、同被告らは、平成五年三月ころ、新機種のレジが導入されて不正行為をすることが困難となったり、従業員のメンバーが数人入れ替わったりしたことから、これを機会に不正行為を止めたとしており、そのころ以降に不正行為が行われた形跡もないこと(なお、平成四年八月から平成五年七月までの間に発生した不明金は、現実には、平成四年八月から平成五年二月までに発生した不明金であるとみることも可能である。)、以上に照らすと、不正行為は遅くとも平成二年八月から行われ、これが平成五年二月まで続けられていたものと認めるのが相当である。

(二) ところで、被告らが、その各勤務期間中、その方法を他から教えてもらい又はそれを見て自分も行っても構わないと考え、原告代表者が本件店舗から離れている時間帯の主に午後七時ころから午後一一時ころまでの間、前記二2(一)ないし(四)のとおり、不正なレジ操作を行って他の従業員や知人に代金の支払を請求しないで商品を取得させ若しくは客として自らこれを取得し、勤務中に本件店舗倉庫内で代金を支払わないで商品を飲食し、又は倉庫内で保管されていた商品や店内に陳列されていた商品を無断で持ち帰るという不正行為の全部又は一部を行っていたことは、すでに認定したとおりである。

そして、このような被告らの不正行為(不法行為)が何時、どのような方法で行われたのかをひとつひとつ確定することはできないし、これを前提とする共同不法行為の存在も確定することはできないけれども、不正行為が行われていた午後七時から午後一一時までの間は、被告ら学生アルバイトは二、三名ずつローテーションを組んで勤務し、うち二名はレジ打ちとその補助業務にペアーになって従事するのが通常であったこと、不正行為によって発生したと推計される不明金は、その発生額が最も少ない平成三年八月から平成四年七月までの間でも月平均五万八〇〇〇円余り(697,000÷12)、最も多い平成四年八月から平成五年二月までの間では月平均二五万三〇〇〇円余り(1,776,000÷7)も発生しており、不正行為が日常的に繰り返されていたことが窺われること、不正行為のうち、レジの不正操作による方法はバーコードリーダーの電子音が鳴らなかったりすることで、レジの補助者や客として来店した従業員も不自然なレジ操作が行われていることは容易に知り得る状況にあり、非番の従業員が監視カメラの監視位置を教えてもらって倉庫内等から商品を持ち出す方法も、その時に勤務している従業員であれば当然にその不正行為を知り得る状況にあり、その他の方法も、同じ時間帯に勤務している従業員同士であれば、これが繰り返されることにより、不正行為が行われていることに疑念を抱くのが通常であると考えられること、各被告らが本件店舗で勤務を始めてからどのくらい経って不正行為の存在に気付いたのかの点につき、各被告らの供述は区々ではあるが、当初から不正行為の事実を素直に認め、原告との間で示談をしている(人証略)は、バイトを始めて一週間位経ってから不正行為を始めた旨証言し、損害額を争っている被告Eは、バイトを始めて間もなく回りの人が不正行為をしていることは薄々気付いていた旨供述し、同じく被告Dは、バイトを始めて一、二か月後に不正行為の存在を知った旨供述しているところ、これらの証言・供述と前記不正行為の態様・頻度とを併せ考えると、各被告らは、遅くとも勤務を始めて一か月を経過したころには、不正行為の存在を認識するに至ったものとみられること(この認識時期とは異なる趣旨を述べる被告A、同B及び同Gの各供述は、前記不正行為の態様・頻度の点に照らして採用し難い。)、以上に照らすと、各被告らは、それぞれ本件店舗で勤務を始めて遅くとも一か月が経過したころから、他の従業員が不正行為を行い、かつ、これが日常的に反復されている事実を認識するに至ったものと認められるから、右事実を認識しながら、その事実を雇用主の原告に申告しないで被害の発生を放置していたものとして、少なくとも、不作為による幇助が成立することは明らかというべきである。

3  被告らの損害賠償責任の範囲について

各被告らが自ら行った不正行為(不法行為)とこれにより原告に与えた損害額をひとつひとつ確定することはできないが、前記のとおり、本件店舗では、平成二年八月から平成五年二月までの間、不正行為が日常的に繰り返されており、このような状況の中で、各被告らは、勤務を始めて遅くとも一か月が経過したころから、その事実を認識しながらこれを原告に申告しないで被害の発生を継続的に放置していたものということができるから、各被告らは、勤務を始めて一か月が経過した日から雇用契約が終了する日までの間に発生したと推計される損害について、少なくとも幇助者としての賠償責任は免れないものというべきである。

この点、被告らは、不正行為を原告に申告すべき義務が発生するのは、他の従業員の個々の具体的な不正行為を発見した場合についてだけであって、そのような場合でない、単に抽象的に不正行為のおそれがあるというに過ぎない場合にまで右のような義務を負担するものではなく、まして、自己の勤務時間外に他の従業員がした不正行為についてまでこれを申告すべき義務はない旨主張する。しかしながら、前記のとおり、本件の不正行為は、単に抽象的にそのおそれがあるといったものではなく、日常的に繰り返されて、再発の蓋然性が高い状況にあったから、この事実を認識した後は、そのような状況が継続する限り、原告に対する不正行為の申告義務が継続的に発生していたものというべきである。そして、被告らの右義務は、不正行為がいわば日常的に繰り返されていた状況に照らすと、勤務時間の内外を問わず、これを認めるのが相当であり、この義務を怠って不正行為の発生を防止しなかった以上、自己の勤務時間外に行われた不正行為の結果に対しても幇助の責任を負担すべきである。

よって、被告らの主張は採用することができない。

五  被告らの損害賠償額について

1  N、M及びKの各支払分についての充当関係について

右三名は、それぞれ本件の不正行為によって生じた損害賠償債務の弁済として、原告に対し一〇〇万円ずつ支払っているところ(前記第二の二3)、弁論の全趣旨によれば、右各支払は各自の負担する元本債務に充当されるに至ったものと認められる。

(一) そこで、まず、右三名の負担すべき損害賠償額についてみると、次のとおりであると推計することができる(以下、不正行為に関与したと認められる期間を「不正期間」といい、この間に発生した損害額は一年を三六五日とする日割計算により推計し、一〇〇〇円未満は切り捨てるものとする。なお、Mについては、勤務開始後約一週間経って不正行為を始めた旨自認しているところであるが、他の被告らとの損害賠償債務の負担の公平を図る観点から、Mについても、他の被告らと同様、勤務開始後一か月してから発生したと推計される損害分から、賠償責任を負担するものとして算定する。)。

(1) Nについて

勤務期間 平成二年一〇月三〇日から平成五年二月二七日まで

不正期間 平成二年一一月三〇日から平成五年二月二七日まで

賠償金額

<1> 平成二年八月から平成三年七月までの間に発生した損害額二二三万円のうち、一四九万円(2,230,000÷356(ママ)×244=1,490,739)

<2> 平成三年八月から平成四年七月までの間に発生した損害額六九万七〇〇〇円全額

<3> 平成四年八月から平成五年二月までの間に発生した損害額一七七万六〇〇〇円のうち、一七六万七〇〇〇円(1,776,000÷212×211=1,767,622)

<4> 合計 三九五万四〇〇〇円

(2) Mについて

勤務期間 平成三年四月一二日から平成四年六月三〇日まで

不正期間 平成三年五月一二日から平成四年六月三〇日まで

賠償金額

<1> 平成二年八月から平成三年七月までの間に発生した損害額二二三万円のうち、四九万四〇〇〇円(2,230,000÷365×81=494,876)

<2> 平成三年八月から平成四年七月までの間に発生した損害額六九万七〇〇〇円のうち、六三万七〇〇〇円(697,000÷365×334=637,802)

<3> 合計 一一三万一〇〇〇円

(3) Kについて

勤務期間 平成四年六月二一日から平成四年一二月一〇日まで

不正期間 平成四年七月二一日から平成四年一二月一〇日まで

賠償金額

<1> 平成三年八月から平成四年七月までの間に発生した損害額六九万七〇〇〇円のうち、二万一〇〇〇円(697,000÷365×11=21,005)

<2> 平成四年八月から平成五年二月までの間に発生した損害額一七七万六〇〇〇円のうち、一一〇万五〇〇〇円(1,776,000÷212×132=1,105,811)

<3> 合計 一一二万六〇〇〇円

(二) 右三名の各一〇〇万円の支払を、各期間内に発生した損害額に対し、各人の賠償金額の割合に応じて按分的に弁済充当(一〇〇〇円未満四捨五入)すると、次のとおりとなる。

(1) 平成二年八月から平成三年七月までの間に発生した損害二二三万円に対し、

<1> Nの支払分から三七万七〇〇〇円(1,000,000÷3,954,000×1,490,000)

<2> Mの支払分から四三万七〇〇〇円(1,000,000÷1,131,000×494,000)

(2) 平成三年八月から平成四年七月までの間に発生した損害六九万七〇〇〇円に対し、

<1> Nの支払分から一七万六〇〇〇円(1,000,000÷3,954,000×697,000)

<2> Mの支払分から五六万三〇〇〇円(1,000,000÷1,131,000×637,000)

<3> Kの支払分から一万九〇〇〇円(1,000,000÷1,126,000×21,000)

(3) 平成四年八月から平成五年二月までの間に発生した損害一七七万六〇〇〇円に対し、

<1> Nの支払分から四四万七〇〇〇円(1,000,000÷3,954,000×1,767,000)

<2> K 九八万一〇〇〇円(1,000,000÷1,126,000×1,105,000)

ところが、右のとおりに充当すると、前記(2)の期間内に発生した損害に対しては六万一〇〇〇円の過払となる。そこで、この過払分を右三名の同期間内の充当額の割合に応じて按分し、これを他の期間内に発生した損害に対する弁済充当額に振り分けると、Nについては、過払分一万四〇〇〇円(61,000÷758,000×176,000)につき、うち六〇〇〇円を前記(1)<1>の額に加えて三八万三〇〇〇円、うち八〇〇〇円を前記(3)<1>の額に加えて四五万五〇〇〇円(各賠償額の割合に応じて按分するものとする。)、Mについては、過払分四万五〇〇〇円(61,000÷758,000×563,000)を前記(1)<2>に加えて四八万二〇〇〇円、Kについては、過払分二〇〇〇円(61,000÷758,000×19,000)を前記(3)<2>に加えて九八万三〇〇〇円となる。

(三) 以上によれば、弁済充当後の残額は、次のとおりとなる。

(1) 平成二年八月から平成三年七月までの間に発生した損害につき、一三六万五〇〇〇円

(2) 平成三年八月から平成四年七月までの間に発生した損害につき、〇円

(3) 平成四年八月から平成五年二月までの間に発生した損害につき、三三万八〇〇〇円

2  各被告らの損害賠償額(残額)について

よって、各被告らが賠償すべき金額(一年を三六五日とする日割計算により算定し、円未満は四捨五入するものとする。なお、被告Aは、平成二年六月二日から勤務しているが、原告が同年八月以降に発生した損害の賠償を求めていることや、他の被告らとの損害賠償債務の負担の公平を図る観点から、被告Aについては、同年八月一日に勤務を始めたものとみなして、同被告の不正期間を起算することとする。)は、次のとおりと推計することができる。なお、同じ不正期間中に生じた損害賠償債務については、これを負担する被告の間では、不真正連帯債務の関係に立つものと解される。

(1) 被告Aについて

<1> 勤務期間 平成二年六月二日から平成四年二月二九日まで

<2> 不正期間 平成二年九月一日から平成四年二月二九日まで

<3> 賠償金額 平成二年八月から平成三年七月までの間に生じた損害の残金一三六万五〇〇〇円のうち、一二四万九〇六八円(1,365,000÷365×334=1,249,068.4)

<4> 合計金額 一二四万九〇六八円

(2) 被告Bについて

<1> 勤務期間 平成二年八月二一日から平成三年一一月二五日まで

<2> 不正期間 平成二年九月二一日から平成三年一一月二五日まで

<3> 賠償金額 平成二年八月から平成三年七月までの間に生じた損害の残金一三六万五〇〇〇円のうち、一一七万四二七四円(1,365,000÷365×314=1,174,273.9)

<4> 合計金額 一一七万四二七四円

(3) 被告Cについて

<1> 勤務期間 平成二年九月三〇日から平成三年四月三〇日まで

<2> 不正期間 平成二年一〇月三〇日から平成三年四月三〇日まで

<3> 賠償金額 平成二年八月から平成三年七月までの間に生じた損害の残金一三六万五〇〇〇円のうち、六八万四三七〇円(1,365,000÷365×183=684,369.8)

<4> 合計金額 六八万四三七〇円

(4) 被告Dについて

<1> 勤務期間 平成三年四月九日から平成五年二月二三日まで

<2> 不正期間 平成三年五月九日から平成五年二月二三日まで

<3> 賠償金額 平成二年八月から平成三年七月までの間に生じた損害の残金一三六万五〇〇〇円のうち、三一万四一三七円(1,365,000÷365×84=314,136.9)

平成四年八月から平成五年二月までの間に生じた損害の残金三三万八〇〇〇円のうち、三三万〇〇二八円(338,000÷212×207=330,028.3)

<4> 合計金額 六四万四一六五円

(5) 被告Eについて

<1> 勤務期間 平成三年四月二四日から平成六年三月一九日まで

<2> 不正期間 平成三年五月二四日から平成五年二月二八日まで

<3> 賠償金額 平成二年八月から平成三年七月までの間に生じた損害の残金一三六万五〇〇〇円のうち、二五万八〇四一円(1,365,000÷365×69=258,041.0)

平成四年八月から平成五年二月までの間に生じた損害の残金三三万八〇〇〇円の全額

<4> 合計金額 五九万六〇四一円

(6) 被告Fについて

<1> 勤務期間 平成三年一二月六日から平成四年八月一八日まで

<2> 不正期間 平成四年一月六日から平成四年八月一八日まで

<3> 賠償金額 平成四年八月から平成五年二月までの間に生じた損害の残金三三万八〇〇〇円のうち、二万八六九八円(338,000÷212×18=28,698.1)

<4> 合計金額 二万八六九八円

(7) 被告Gについて

<1> 勤務期間 平成四年四月二三日から平成六年三月八日まで

<2> 不正期間 平成四年五月二三日から平成五年二月二八日まで

<3> 賠償金額 平成四年八月から平成五年二月までの間に生じた損害の残金三三万八〇〇〇円の全額

<4> 合計金額 三三万八〇〇〇円

(8) 被告Hについて

<1> 勤務期間 平成四年七月三一日から平成五年三月三一日まで、及び同年一一月一五日から平成六年二月二五日まで

<2> 不正期間 平成四年八月三一日から平成五年二月二八日まで

<3> 賠償金額 平成四年八月から平成五年二月までの間に生じた損害額三三万八〇〇〇円のうち、二九万〇一七〇円(338,000÷212×182=290,169.8)

<4> 合計金額 二九万〇一七〇円

六  結論

以上の次第であるから、被告らは、原告に対し、民法七一九条二項に基づく損害賠償義務として、それぞれ、前項の合計金額の賠償金を支払う義務があるというべきである。

よって、原告の被告らに対する請求は、右金員とこれに対する不法行為後で各訴状送達日の翌日(被告A、同C、同F及び同Hについては平成六年八月一一日、被告B及び同Eについては同月一二日、被告Dについては同月二〇日、被告Gについては同月二一日)から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条本文、六五条一項本文を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成一〇年七月三日)

(裁判官 飯塚圭一)

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